読書感想文「正義の教室」 ギャルゲー風に学ぶ哲学
正義の教室を読んだ。作者の飲茶さんの書籍は作者買いしているのだが、今回も外れなく「哲学すること」を物語に乗せて情緒的に伝えるという点に関してすごい本だった。以下多少のネタバレあるかも。
本書ではどういった行動が正義として考えられるかを3つに分類し、それぞれの哲学を3人の女の子で表現している。
哲学史とかをストーリー風に仕立てて紹介するというのはこれまでにも試みられてきたと思うが、哲学の紹介が主になり物語として魅力的なイメージがなかった。その点、本書は単純に物語としても楽しめた。登場人物のバックボーンとかも相まって魅力的だし、トラウマを解決していく過程などはまるでギャルゲー仕立てでありとっつきやすかった。ラノベ風と言い換えてもいいかもしれない。
本書で提示されている3つの正義とそれを支える思想は以下の通り。
・平等の正義:みんなの幸福度(ハッピーポイント)を計測し、それが最大になるのが正義 → 功利主義
・自由の正義:たとえ全体の幸福度が下がっても、自由を保障するのが正義 → 自由主義
・宗教の正義:正義は理屈ではわからない。良心に従って自然にわかるものが正義 → 直観主義
本書のわかりやすさは様々な正義を上記の3種類にざっくり分けて、それぞれの特徴、問題点を比較しているところにある。
例えば自由主義。実際には自由主義と呼ばれるものの中でも、リベラリズム、リバタリアニズム、ニュー・リベラリズム、ソーシャル・リベラリズム、ネオ・リベラリズム、モダン・リベラリズム等あるらしい。しかし、本書では自由主義を「全体の幸福より自由を優先するか?」という点で、「弱い自由主義(全体幸福のためには自由の規制も必要派)」と「強い自由主義(全体幸福より自由が大切だよ派)」に分け、強い自由主義だけを比較対象にしていたりする。この分類はとても分かりやすく、自由主義の大まかな形が分かるよう工夫されていると感じた。
また最後の展開には正直衝撃だった。そう来るかーって感じ。見てしまえば、それまでの物語の総括としてはこれ以上ない展開ではあるが、初見では完全に予想外だった。
私はガチガチの哲学本とかは読まないが、こういった「面白い」哲学本とかを読むことはたまにある。こういった本で「何が正義と言えるのか?」と考えるのも面白い。本書内でも「何が正義と言えるのか?」については一通りの回答はされている。ただ個人的には「自分が何を正しいことと考えていて、その源泉は何なのか?。自分の正義にはどんな限界があるのか?」と考えることもまた面白いと感じる。
こういった「哲学する」ことに焦点を当てて表現するような作品がとても好きだ。本書の読後感は漆黒のヴィランズのメインを終えた時と似た感覚だった。エメトセルクに想いを馳せたように、「善いこと」に想いを馳せることになった。
今後もこんな感じの物語を探していきたい。