沼メモ

FF14(槍鯖)、その他ゲームやらなんやらの話題を書きたい。

読書感想文「密やかな結晶」

小川洋子著 「密やかな結晶」を読んだ。

偶然この記事を目にしたことがきっかけだった。

www.sankei.com

 

小川さんの小説は、『博士の愛した数式』を中学生くらいの時に読んだような記憶があった。1~nまでの合計を求める計算式の考え方が目から鱗だった覚えがある。

記事の中の、人間や社会には理屈ではさばききれない闇があり、それをすくい上げるのが文学という言葉が妙に心に残り、ちょうど記事の中に密やかな結晶の紹介が載っていたので、読んでみようと思ったのだった。

実は最新作かと思って買ったのだが、実は1994年に刊行された小説の新装版で、博士の愛した数式の刊行より10年近く前の小説だったことに気づいたのは読んだ後だったりする。

以下一部ネタバレあり。

 

 

全体的な感想としては、よく分からなかった…というのが正直なところ。

 

何が分からなかったかって、まず記憶消去のメカニズムが分からなかった。

作中では記憶の消去について具体的なメカニズムは説明されない。本作にとって記憶消去のメカニズムや意図は作者の表現上あまり重要ではないのだろうとは思うのだが、無粋ながらどうにも気になって夜しか眠れない。

 

記憶の消滅は意図的なものか自然現象なのか。

私は自然現象なんじゃないかなーと思った。統治のために鳥やら薔薇やらの記憶を消す意味が分からないし、最後は人体全ての記憶を消し去ってまでいる。これが意図的なものであるなら何がしたかったのか分からない。それよりは、何らかの自然現象で記憶が消去され、それを統治に利用していると考えるほうがまだ納得がいく。

記憶の消去は自然現象だけど、統治に邪魔になりそうな記憶の消えない人を取り締まるために、秘密警察が記憶狩りを行っているのかなと考えた。

 

消滅の効果

まず消滅と言っても、物それ自体が跡形もなく物理的に消えるわけではない。消滅が起きた時に主に消えるのは島民の記憶になる。単にそれが何かという意味記憶だけでなく、それに関連するエピソード記憶も消えるようだ。しかし全ての記憶が一瞬で消えるわけでもなさそうだ。記憶が消滅した後、人々は消滅したものを自分から廃棄しようとする。香水が消滅したときは持っていた香水を川に捨て、鳥が消滅したときは飼っていた鳥を手放した。もし、関連する記憶全てが一掃されるなら、そもそもどう扱っていいのかさえ分からないはずだ。
廃棄する理由については主人公が作中で、消滅によってできた心の空洞が、燃やすことに関して自分を突き上げてくると述懐している(この時は写真が消滅していたため、みんな写真を燃やしていた)。ここから消滅したものについても、少なくとも「廃棄すべきもの」という認識は消えないことが分かる。そして消滅したものをあらかた廃棄して、心のざわつきが収まったころにはそれがあったということを思い出すこともできなくなる。

 

これって例えば「ねじ」が消滅したりした場合はどうなったんだろう。ほとんどの工業製品にはねじが使われていると思う。ねじが消滅したらねじが使われている製品を全部分解するのだろうか。そしてねじを使わない新しい技術を生み出したりするのか?

あと「サケ・マス」って同じ魚だけど、サケだけ消えるとどうなるんだろう?とか、「ハマチ・ブリ」だとどうなるんだろう?とか。多分「魚」って括りで消されそうだな。

 

また、あらゆるものが島から消滅していき、最後に残ったのが声というのもよく分からなかった。「最後」と言っているので、声に先んじて人体全てが消滅したと思われる。そうなると肺や気管や声帯も消滅しているはずなので、その使い方が分からなくなっているはず。どうしてその状態で声が出せるのだろうと思った。

 

こういった消滅のメカニズムやこういう場合は?という疑問が結構あって、いちいち気になってしまった。

 

密やかな結晶について

題名の「密やかな結晶」が何かについては、解説の中で小川さん自身の回答として以下のように説明されている。

”人間があらゆるものを奪われたとしても、大事な手のひらに握りしめた、他の誰にも見せる必要のない、ひとかけらの結晶があって、それは何者にも奪えない。(中略)心の中にある非常に密やかな洞窟のような場所に、みんながそれぞれ大事な結晶を持っているというイメージですね”

 

小説を、言葉を、心を奪われ、記憶さえ残らないとしても、なおもまだ残るものがあるのだろうか。分からない。
いや違うか。
小説や言葉や心や記憶までも消し去って、なお残るものについて密やかな結晶と名付けたということか。でもそれはどのような物なんだ。やっぱり分からない。

 

うーん。「分からない」という感覚がかなり頻繁に出てきてしまい、世界観を味わうまでいかなかったような気持ち。あまり感想みたいなことが書けなかった。あんまり舌触りがよくなかったかも。