沼メモ

FF14(槍鯖)、その他ゲームやらなんやらの話題を書きたい。

読書感想文「推し、燃ゆ」 ネタバレあり

エオルゼア読書倶楽部でお世話になっているユズさんが紹介していたのを見て、オタクとか発達障害とか気になるフレーズがあったので、さっそく読んでみた。

 

紙か電子かで迷ったが、仕事の休憩中ですぐに読みたかったので、電子書籍で購入してすぐに読んでみた。
その結果、心の半分を本に吸い取られ、仕事中も心ここにあらず状態に陥ってしまった。するすると読みやすく、いつの間にか本の中にいるような感じだった。
この本は語り口が淡々としていて結構静かだなと感じる。BGMがないただ環境音だけの世界だけども、だからこそ想像がしやすく、それが読みやすさに繋がっているのかもしれない。

 

物語はアイドルの上野真幸がファンを殴ったことで炎上したところから始まる。
主人公のあかりは高校生で、上野真幸を推しとして熱烈に応援しており、自身の背骨と言えるほどになっていた。
その推しが炎上したことで、人気に陰りがみられるようになる。
自分の背骨である推しの人気がなくなっていくことで、あかりはどのように感じ、行動するのかというのが見どころ。

 

発達障害の描写

物語中、随所であかりの生きづらさが描かれる。最後まで名前は出されないが、病院で何らかの診断をもらっているらしい。描写からは多分発達障害の一種のような感じがする。
自分も多少あかりに似たような経験があるから、失敗したときのエピソードを読むと過去の自分の失敗を思い起こしながら読むこともあった。


特にバイトの描写とかすごい自分を見てる気分がした。
作業ルートの分岐を覚えてある程度はこなせるようになっても、忙しいときに限って例外事項が出てきて、頭からこぼれ落ちていくとかまさに自分だ。例外事項に脳のメモリを使ってる時にさらに外部から新しい用件ばんばん言われて、本書の表現を借りれば「焦りばかりが思考に流れ込んで乳化するみたいに濁っていく。」

 

家での生活や学習についても、いつの間にか物が堆積して足の踏み場もなくなっていたり、何度も聞いて覚えたように思えても次の日には忘却していたり、周りが普通にできていることが自分にはできないという思いを抱えていたようだ。

 

そういった生きづらさを、あかりは「肉体が重い」と言っていた。
その重さを支えて何とか立たせてくれていたのが、背骨としての推しだったのだろう。推しがいたから二足歩行して歩いていられた。それは世界の中心だった。
じゃあ、背骨が、推しが消えていったらどうなるのか?。それがラストに向かって描かれていく。

 

・執着ゆえの苦

物語上で「執着ゆえの苦」というのが随所に出ていたように個人的に感じた。自分が仏教趣味でそういったテーマを基に読んでしまうところが大きいからとは思うけども。


主人公のあかりは言わずもがな、推しに対して強い執着を持っていた。それも自分の背骨と同化してしまうほどに。推しの人気に陰りが出てからは、まさに自分の身を削りながら推し活動を過激化させていく。そうしなければ自分が立てなくなるかのように。
結果として健康を害し、もとより悪い成績も悪化した。

 

あかりの母についても、自分の理想の家庭像に執着しているように感じた。手に入らない際限のない理想という欲望に執着して、不満を募らせ苦しんで白髪を増やしていた。

 

こんな感じで物語に執着ゆえの苦が描かれているように感じ、はてさて仏教の枠組みではどのような回答をするのかなーとか考えることもあった。

 

・ラストの救い

物語の最後に、自分は救いがあると感じた。


自分の背骨である推しが消えた後、自分から生活を滅茶苦茶にしようとした時、あかりは気づいた。「中心ではなく全体が、あたしの生きてきた結果だと思った。」「二足歩行は向いてなかったみたいだし、当分はこれで生きようと思った。体は重かった。綿棒をひろった。」

 

今まで推しを推している時は、背骨があったから重さを忘れられていた。でももう背骨はない。
その時自分の体の重さに気づいた。中心たる推しではなく、部屋の全体こそが自分が生きてきた結果と気づいた。それらに気づいた上で、自分からたたきつけた綿棒を拾って生きようと思うことができるのであれば、きっと当分は大丈夫だろうと感じた。

 

・題材の普遍性

この本のレビューで「題材が若い」というのを見かけたが、個人的には若者に限らない普遍性があると感じた。

 

本書でいう「推し」と言えるものがなかったとしても、人それぞれに自分を成り立たせている大切な要素(背骨)みたいなものはあるだろう。

家族だったり、恋人だったり、健康だったり、目標だったり、思考能力だったり、経歴だったり。それらはいつか消えたり無価値になる。無常なるものだから。

 でもその後だって、人生は続くのだ。自分が大切に思っていたものが消えた後も、死なない限りは生き続けるしかない。

その時私たちはあかりみたいに、自分の重さを感じながら、散らかしたものを片付けながら生きようと思えるだろうか。

自分だったら死ぬことはなくとも、多分心身のバランス崩してぶっ倒れそう。

そういう意味であかりは結構強いなーと思ったりしていた。

 


 

全体を通して心を吸い込まれた作品だった。

こういう出会いがあるから読書は面白い。